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高次元宇宙少女~つくられたもの~

私は白い廊下の先の白い扉を開けた。
私の不思議の世界は薄暗い錬金術の実験室と繋がった。
奇妙な実験器具と液体だらけの異質な空間に足を踏み入れ、長身の男の背後に歩み寄る。

「伯爵、私に頼みって?」

「やあネメシス、よく来てくれたね。これだよ」

振り返ったサンジェルマン伯爵が右手に持ったフラスコの中にオレンジ色の光の球体があった。

「それは?」

「魂の原形質とでも呼べるものだ。しかし、まだまだ不完全。君にこれを完全な存在に完成させて欲しいのさ」

「なにが不足しているの?」

「感情、知識、思考能力……ひとまとめに言えば心そのもの。魂の原形質は心の器でしかない。そこで君の不思議の世界で色々な体験をさせてやって欲しい」

「なぜあなたが自分でやらないの?」

「それはだね、私は色々と他の実験で忙しい。だから信頼置ける君にお願いしたいという訳だよ。ネメシス君、どうだろう?この原型質は君の力にもなりうる実験体なのだよ」

「どういう意味かしらね?」

「個の光の球体は君の心に同化して成長するようになっている。君の心の延長として役に立ってくれるだろう」

「そうね、中々面白そうではあるわ。だけど……」

「だけど?」

「私の反転世界は一見穏やかに見えて、真には狂気や混沌の面が強い。外から持ち込まれた心の素はどんな成長を遂げるのかしらね?それもまだ誕生したばかりの心の素」

「何も問題はない」

でしょうね。伯爵の実験はそういうものだ。彼は予期せぬ反応、取り返しのつかない結果を楽しんでやっている。
不老不死の長い年月のせいで、簡単に予測できる実験結果などはとっくの昔に飽きてしまっている。
彼にはこの私だって実験用器具のひとつとしか見えていないのではないだろうか?たびたびそう思えてくる。

「君さえ準備がよければ早速実験開始したい」

「ええ、準備はいいわ」

光の球体は私の胸に吸い込まれていった。
心が二重になる違和感を感じた。
違和感はすぐに消え去り、心の素が私の心に同化したのを実感した。

「なんだか普段と変わらない感じ……。後は、私の鏡世界を見てくればいいだけなの?」

「ああ、その通り。簡単すぎて拍子抜けさせてしまったかもしれないな」

「いえいえ、何か面倒なことが起きる予感がするわ。楽しんでくるわね」
私は少し皮肉を込めて言った。

私は先ほど入ってきた元の扉に引き返すと扉を開けた。
扉の向こうは私の不思議な世界。
明るく真っ白い廊下が続いている。
薄暗い伯爵の実験室に光が差し込み、すぐに再び薄暗くなった。




“私たち”は長い長いエスカレーターをで長い長い坂道を下った。




長い長い長いエスカレーターで長い長い坂道を下りきると、巨大で、用途不明の機械装置が目に飛び込んできた。
それは、大小様々な歯車や曲がりくねったパイプが複雑に組み合わさってできていた。
パイプの先端からは蒸気が噴き出している。
そして、歯車や蒸気の音はとても静かだった。
装置のすぐ傍にはブリキ缶が転がってる。

私はブリキ缶の近くで装置を眺めた。

「どれくらい面白い?」
突然、ブリキ缶が置きあがって尋ねてきた。

「そうね、ちょっぴり面白いわ。装置の役目を知ったらもっと面白くなるかしらね?」

「これはただ動いているだけさ。それ以外の何でもないさ。ただそのために作られたんだよ」
ブリキ缶は答えた。

「そう、ほんの少しだけさっきより面白くなったわ」

ほんの僅かだが、心が締め付けられる感覚があったような気がした。
しかし、私はすぐに忘れた。


装置から離れ、“私たち”歩き続けた。





突然のことだった。


背後に悪寒を感じて素早く振り返った。
真っ黒な何かが黒い刃のようなものを振り下ろす、まさにその瞬間だった。
私はとっさに両腕を上げて頭を庇った。
瞬時に赤色の炎を纏って強化された両腕が狂気の刃を受け止める。

くっ……

静寂。
直接刃に当たった右腕から一筋の血が僅かに流れ、ゆっくりと滴り落ち足元に赤い染みを描いた。
炎で強化していなければ腕は切り落とされていただろう。最悪、頭も。

黒い何かの姿を落ち着いてよく見てみるとそれは少女の形をしていた。
あれは、まるで、私の影の様だ。
実体化したのは私の影か?
私の影が私に襲い掛かってくる。自分の影を制御できないなんて。
しかも私の鏡世界の中だというのに。

これも心に同化した実験体のせいなのか
いえ、この私のとは別の感情……これは……震えているの?
そうだ、実験体は怯えている。恐怖している。怒っている。
何に対して?―――私に対してだ。
この私に対して恐怖しているのだ。
だから、私の影を操って私自身を破壊することでこの世界終わらせようとした。
やってくれるわね伯爵。

でもいったいなぜ私に恐怖しているのかしら?
直観を使用する―――
すると、問いに答えるように先ほどの装置が頭に浮かんだ。
あの装置?
でも、あれのどこに恐れる要因があるというのか……


いや、違う。
あの装置に対しての私とブリキ缶のやりとり、だ。
といっても、ブリキ缶は私の内面を映し出したものだから全て私の感想。
なぜなら私の創り出した不思議な世界なのだから。

ああ、生まれてすぐに存在意義を決定された気持ちなのだろうか。
私があの装置に対して抱いていた思いは、実験体に対して抱いていた思いでもだった。
そして、その思いは“ソレ”の望む思い出はなかったのね。


私は背後に飛び下がると左手で赤色炎剣を構えた。
影が向かってくる。
動きはとても単純。生まれたばかりの心が操っているのだから当然か。
突き出された黒い剣をなんなく右に回避すると赤炎剣で影の首を―――刎ねた。

私の首に衝撃が走り、目の前が真っ白になって意識が消失した。
すぐに、もうろうとした意識が戻り、おぼろげな視界が血の海を映し出す。
影と同時に斬り飛ばされたであろう自分の頭部はすでに胴体に繋がっている。
継ぎ目から出血が続いていたが、みるみる少なくなって傷口は消えた。
私は血の海に立っていた。白いドレスは紅に染まっていた。
そして、私の影も首の繋がっている姿で目の前に立っていた。
影は再び私へ刃を振りかざす。

急に周囲の空間がゆらぎはじめた。
影の動きが鈍くなる。

上から突然、恐ろしく巨大な何かが現れた。
暗緑色のそれは真っ赤な大きな口を開いた。
ずらりと並ぶ鋭利な銀色の牙が見えた気がする。

竜?

次の瞬間、私と私の影は大口に飲み込まれ、私の意識は再び消失した。


意識は冥王に収束する。


冥王である私は私の幽霊劇場の巨大なホールの中ほどに立っていた。
すると静寂を破るように、コツリコツリと大理石の床を歩く靴音だけが、一見私しかいないホール内に響く。
しかし、その足音の主は私には見えている。
振り返ると、うっすらと白いもやのようなものがこちらへ近づいてくるところだ。
それは次第に輪郭と色彩が確かなものになっていく。
腰まで届く長い金髪、青白い肌に蒼い瞳、白いドレス。
人間でいえば13歳位の見た目の少女。
少女は私の目の前で立ち止まると少しふてくされた表情で私を見つめ、呟いた。
「また見つかってしまいましたわ……。今回は念入りに姿を消して足音も消したはずなのに、いつも通り」
私は無表情のまま、優しく答える。

「レイチェル、次は見ないふり聞こえないふりしてあげるわ」

「それでは意味がありませんわ」

「では、私が何か思いにふけっているときを狙いなさい」

「今回もそのつもりだったのですけれど……あなたを驚かすのは難しすぎますわ。でもわたくしは諦めませんわ」

「ふふふ、上手くいくといいわね」

私は舞台上に目をやる。
舞台は遠いようであり近くでもあるように空間が揺らいでいる。
近くにある状態に固定して揺らぎを収めた。
次に、緑色の幽霊霧を空間から噴出させてグランドピアノと椅子の形を形成する。
それはすぐに本物の黒いグランドピアノになった。
私はふわりと宙を舞い舞台上に着地した。
レイチェルも私を追いかけて飛び立った。
私は椅子に腰かけてピアノを弾き始めた。

曲名は『始まらない朝』

レイチェルは瞼を閉じて悲しい音色に耳を傾けた。



冥王ルシアへ

『遊びに来なさい』

         魔王様より

P.S.
私の意識は開けておくのでいつでも入ってくれて構わない。



黒衣の少女は旗艦の艦橋から宇宙空間で行われる艦隊同士の戦いを見守っている。
生物と機械の融合したバイオメカデザインな無数の艦船は黒と白の色違いで二つの陣営にわかれていた。
少女は黒の陣営で旗艦の中から直接指揮を執っていた。といっても見た目には戦場を窓から眺めているだけであったが。
白の陣営は全自動のAIによって統率されている。なのでこの戦い全体が彼女のボードゲームなのだ。


意識は黒衣の少女に収束する。


私の思念に合わせて艦隊が踊る。
ビームを撃ち、ミサイルを放ち、爆散して消え、あるいは再生や復活を行う。
星の海に上書きされる一際輝く星の海。

「どうかしら?」

私は今しがた現れた背後の存在に対して囁いた。

「あなたも参加してみない?白い方の指揮役をやってもいいわよ」

少しの沈黙の後、

「どうしてもあなたがそれを願うならしてもいいけれど……」

感情のない声で答えが返ってきた。

「いえ、ここで一緒に見ていましょう」
暗緑衣の少女は私のすぐ右隣に並んで窓から星の海を眺めた。


「誘って悪いんだけど、何も感じない遊びでしょう」

「そうかしら?私は面白いけれど」

「私は何日も見つめ続けているからな」

「それは麻痺するわね」

「ええ、でも何故か惹きつけられて目が離せなくなる光景なの」

私は右を向き彼女の横顔を見つめた。
無表情な白く美しい横顔。緑に輝く瞳が戦場を見つめている。
時折、粒子ビームが放つ赤や緑の光が白い髪と肌を色鮮やかに染める。

「どうしたの?惹きつけられるのではなかったの?」

冥王は窓の外を見つめたまま尋ねた。

「より上があるということだよ」

私は静かに答えた。



「少し踊ろう」

「ええ……」

空間が揺らぎ周囲の物の判別がつかなくなる―――次の瞬間、私たちは艦隊戦が行われている宇宙空間の真っただ中にいた。

私は黒い光の翼を広げ赤い光の剣を物質化した。
冥王の黒衣が広がり冥界の緑の閃光が彼女を包む。緑光の一部が剣を形成し冥王の手に収まった。

「行くわよ」

私はテレパシーで思念を送った。

「ええ」

冥王の意識がそれに答えた。

赤と緑の光は互いを追いかけ衝突しあるいは仲良く軌跡を描き、星の海の中に最大の輝きを放った。


ひときわ強い衝撃が冥王を直撃し、僅かの間、彼女を気絶させた。

なんだ?冥王の中に何か入っているぞ。
何を食べたの、あなた?
存在の光を掴むと冥王の中から引き出した。

すぐに冥王が目を覚まして呟いく。

「あ、何かした?」

「ん……いや、なんでもない。特に気に留めるほどではない」

「そう……」





大きな黒い部屋―――
壁には青い光の記号や数字が滝のように流れ落ち床に広がり、または上に昇り天上に広がっている。
眉間から青い光が発して青白い光の立方体を出現させた。

今日の記録、保存しておく

冥王は私の意識領域から去った。いや、前より結びつきは強くなっている。離れても意識の接続が前よりも強く感じられる。
また彼女を誘おう、今度はどんな遊びをしましょうか。



ネメシス……ネメシス……目を覚ましなさい


誰かが私を呼んでいる。起きないと……


目を覚ましたわね


「ここは……私……いったい……」

「あなたは冥王に飲み込まれていたわ」

聞いたことのある少女の声がする。ぼやけた視界に映る黒髪の少女の輪郭。

「あなた……魔王様?」

「そうよ、私が取り出してあげたの。そしてまた冥王に食べられないようにこの部屋に保管しておいたあげたの」

視界がはっきりしてくる。黒髪の少女が微笑みながら私を覗き込んでいた。

「あ、ありがとう」

「あなたの中にさらに誰か存在してるようだけど、まさかあなたの子供?」

「違うわ。マッドサイエンティストの実験体よ」

「ああ」

魔王様はすぐに理解したようだった。
そういえば、実験体からは恐怖や怒りが感じられなくなっている。

「かなり厄介な存在だったんだけど、不思議と今は落ち着いている。恐怖や怒りの感情は無くなっているわ」

「不思議ではないかも」

「え?」

「それらの感情は食べられて、持ってかれたわ」

そうか、あの竜に……

「これからどうするの?」

「そうね……取りあえずアイツの実験室に戻るわ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その頃、冥王城では
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「お帰りなさい冥王様」

「ただいまレイチェル」

「何して遊ぼうか」

冥王様、なんだか少し眠そう。それなら私が眠る前のお話をして差し上げますわ。

「では本を音読しますので聞いてください」

「いいわよ、どの本なの?」

「『つぎはぎ死体の操り方と関連事件記録』です」

「なかなか面白そうね」

冥王様はベッドに昇って布団に入った。
それを確認してから、私はベッドの傍らの揺り椅子に座ると『つぎはぎ死体の操り方と関連事件記録』を開いて読み始める。

「序章、つぎはぎ死体のつぎはぎのしかたの基本。まずは基本の基本として同一種の死体を使用したつぎはぎの方法を記す。同一種ゆえ各部位のスムーズなつぎはぎ、並び替え、組み合わせが容易である。しかしながら多様性の面からは同一種では―――」


私は瞼ををそっと閉じた。
レイチェルの声が次第に遠ざかっていく。
白いマーガレットが咲き誇る草原に私は仰向けで寝ころんだ。
心地よい風に乗った花の甘い香りが私を包み込む。
瞼を開いて見上げると目に飛び込んできたのは、青く透き通る大空、ゆっくりと移動する少なめの雲、眩しくて暖かい太陽の光。
遠くから草原を駆けまわる少年少女たちの無邪気な笑い声が聞こえてくる。

飽きてきたな……

どうしてあんなことを思ってしまったのだろう。そんなこと思う必要は何もなかったのではないの?
でも私はそう思ってしまった。それは確かに起きたこと。

突然周囲の全てが鮮やかな色彩を失い始めた。
晴れ渡る空を暗い雲がみるみる覆い、太陽の光を遮る。雲自体はそれ程分厚いというわけではない。太陽の光自体が弱まり明るさを奪っていっているのだ。
子供たちの笑い声と気配が消え、代わりに冷たい霊気が漂い始めた。草原の草も花もみるみる萎れていく。

私は上半身を起こすと周囲を見渡した。
焦りと困惑の表情で

なんで、どうしてこんな世界にしてしまうの?
元に戻そう。そう、今なら間に合う、引き返せるはず。

「冥王様?」

突如、背後から声が聞こえた。私は驚いて振り返り、声の主を見上げた。。
ひとりの金髪の少女が立っていた。

「あ!驚きましたわね」

「あ、あなたは……レイチェル……?」

「もちろん、そうですわ」

少女はクスクスと笑いながら答えた。

「どうしたの?」

「それはこっちが聞きたいですわ。この空間、冥王様の昔の記憶なのかしら?」

「さあ、どうかしら。あまりに昔の記憶は忘れてしまったわ。だからただの妄想の可能性が強いわね」

本当にそうだろうか……
レイチェルはしばし不思議そうな表情で考えていたが、納得したように笑顔になると話題を変えた。

「わたくし、りんごケーキを焼きましたの、召し上がりますわね?」

「ええ……いただくわ」

「冥王様が持ち帰ってきてくれた魂の欠片、ケーキの材料に使わせて貰いましたわ。あれ、お土産だったんでしょう?」

 魂の欠片?
 記憶が一部抜け落ちている。記憶が消えたのはいつだったか……
 そう、確か2体ほど喰らった筈だった。
 でも今は空っぽになってる。
 魔王の仕業ね。今度、覚悟なさいね。

「上手に使ったんでしょうね、レイチェル。」

「もちろんですわ。ウフフフフ」

レイチェルは私に右手を差し伸べてきた。私はその手を両手で握ってフラフラと立ち上がった。
そして瞼を閉じた。

次に瞼を開くと私は食堂にいた。
黒檀の長テーブルの上にいくつも置かれた燭台の蝋燭が暗い食堂をぼんやりと照らしている。
私はテーブルの短い辺の位置の椅子に座りぼーと蝋燭の炎を眺めていた。
レイチェルがりんごケーキと紅茶を私の前に並べた。

「どうぞ、召し上がれ」

「ありがとう」

私はフォークで一口食べてみる。甘いりんごの味が口の中に広がる。

「とても美味しいわ、レイチェル」


「ねえ、レイチェル」

「なんですか?冥王様」

「私はここにいるわ、この冥界に。あなたのそばに」

レイチェルは静かに私に抱きついた。

「知っていますわ。ここはあなたの冥界ですもの。あなたがいなくなればここは御終いですもの」

「そんなことするつもりはないわ」

私はレイチェルの頭を優しく撫でた。

「嬉しいですわ」


なぜなら、この冥界は私を飽きさせない
心地よい狂気と恐怖の織り成す暗黒の天国


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



再び白い扉を開け、私は錬金術士の実験室へ押し入った。

「はーくしゃく♪」

「お帰りネメシス。どうだった」

「そうねぇ、あなたが最低な男だってことが再認識できたわね」

「そうかね」

「それから、これは私からのお礼よ」

ドスッ!!!!!!

グシャッ!!!!!!

 憤怒炎の拳で壊滅的打撃を錬金術士の腹に与え、悶絶して倒れたところを更に顔面を踏み砕いてやった。

「ほ、ほうかね……あ、アリガだく、ウ、ウゲドって……おぐヨ……」

「ソ……それで実験体を返してもらえるかね?」

「それだけど、もう少し預からせてもらうわ」

「しかし……」

「い・い・わ・ね?」

「よかろう」

「よ・ろ・し・い♪」


これで手放すのは少々惜しい気がするもの。
動くだけと思ったことは撤回するわ。
だって、私を多いに楽しませてくれそうだから。










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二人の魔女



「私、飛べるの、かな?」


アミル、大丈夫だよ、思い切って飛び出してみて」


紫色のローブを纏った金髪の少女、セリアは笑顔で私に言った。


「……わかった」

高い空に存在している魔導空中宮殿。

そこから望む足元には広大な青空が広がっている。


準備はできている。
精神力は強い風にも負けない。
明るい茶色のブロンド髪も風に負けない精神力で整える。

お気に入りの黒のロングコートが風にはためく。
魔法の傘を開いて空中に飛び出す。

魔導空中宮の縁から手を離して空中に歩み出す感覚……
と思ったら……

「わ、わ、落ちる!」


「私が支えてあげるから、思い出して、飛行する感覚を」


ほうきに乗ったセリアが私を追いかけ、隣に並んでそう言ってくれた。


「う、うん」


思い出す、飛ぶ感覚を……
そういえば、何故忘れていたんだっけ?
だめだめ、今はそんなことに構っている場合じゃない!

どんどん高度が下がっていく。
このままだと海に落ちてしまうかもしれない。


「その調子だ、パダワンよ」

セリアが偉そうな調子でふざけた。


「はあ?なにそれ……こんな時に……冗談は……やめてよ」


リラックスできたのか下降速度が和らいだ。
それでもだんだん高度が下がっていくことには変わりはない。

傘に加えて箒を召喚して乗ることにした。
召喚は落ち着いて成功。

体が軽い。
体と傘と箒、みっつがひとつになって反重力場が形成される。
下降が停止した。

と言っても海面すれすれの高度だけれど。

次第に速度が上がっていく。



「ねえ、見て!こんなに速く飛べるよ!」


「良かったね。でも、まだまだよアミル!」

頭上をあっさりと追い抜かれる。
彼女は私よりも高度も速度も段違いだ。


「私に付いてこれるかしら?」


「私を甘く見ないでよ」



時がたつのも忘れ私たちは飛行して遊んだ。
やがて、夕日が沈みかけるころ、海岸沿いの街並が見えてきた。


「人間に見られないよね?」


「心配ないわ。普通の人間は私たちを認識しようとしないから☆」


「そうだね」



私たちは正真正銘の魔女。
人間とは周波数の違う世界に暮らしている。
魔法感知能力の低い人間に見つかる心配はない。


そう思った矢先、

警官姿の男が駆け寄ってくる。

しまった、見つかってしまった!?

『大丈夫』、と繋いだセリアの手を通して伝わってきた。


大丈夫?何が大丈夫なの???
もう遅いよ……


「君たち、また大胆に街中を飛ぶなんて正気かい!?」


「警察さん、元気そうですね。大丈夫ですよ、普通の人は気づきません。あなたのように私たちに接触経験のある方は別ですけど」


「前みたいなことになっても助けてあげられるとは限らないよ」


「ええ、今回は大丈夫です。私も随分と成長しましたから」

私はふたりのやり取りをポカーンと傍観していた。


「それじゃあ、くれぐれも気をつけるんだよ」


「ええ、どうもありがとう」


警察さんは巡回に戻っていった。
彼女は私に向き直ると笑顔で言う。

「ね、大丈夫だったでしょ」


「そうだね」


なぜだか詳しく聞く気にはならなかった。

彼女も何も言おうとはしない。


魔法使いの感覚に導かれるように、占いの幕屋が並ぶ街道にやってきた。

薄暗く狭い道を屋台の赤や紫の妖しい光が照らしている。
人通りはまばら、皆、魔法使い風の姿……というか実際そうなのだろう。

普通の人間はいないみたい。
一般人には知られていない場所のようだ。


「待って、人間界はお金が必要な国もあるのよ」


「お金?不便な世界ね」


私たち、魔女や魔法使いにお金は必要ない。
病気は回復魔法で直せるから薬も病院も不要。

食べ物は召喚魔法で取り寄せられるし、視覚イメージ食品を作って食べることもできる。

住む場所も服も魔法で作れる。
お金を求めて忙しく働く必要は全く無い。


「誰もいないみたい」


占い小屋の中は無人だった。
水晶玉やタロットカードやアンティークドールが並んでいる。

籠に折り畳まれた紙がたくさん入っている。
占い結果が書かれた籤が引けるみたいだ。

大きな皿にコインや紙が乗っている。


「ここにお金とやらを置くみたいね」


「お金は持ってないわ、代わりにこれでいいかしら」


ポケットから神話くるみをひとつ取り出して皿の上に載せた。


「私はこれにするわ」


彼女は宇宙樹の葉を一枚、神話くるみの隣に置いた。


占い籤を一枚引いてみる。


書いてあるのは当たり障りもない内容。
恋人に出会うとか、絵を飾れば富が得られるとか……
魔法使いにとっては、未来を占いにたよる必要はない。

自分自身で望む未来を選択できる能力を持っている。

ふと、ひとつの文章に目が止まった。


失われたものが見つかるでしょうーー

失われたもの……これも人それぞれね……私の場合は……



「ねえ、聞いてもいい?」


「なあに?」


「私、何を忘れているのか知ってる?」


セリアの表情が陰った。私から目を背けて俯く。
何故だか予想通りの反応……


「知らない……方がいいこともあるよ……」


「そうだね、ごめんね」


「……」


「次はどこへ行こうか?」


「決めてない。でもどこへでも行けるよ」


彼女の笑顔が戻った。


「じゃあ適当に散歩しながら考えようよ」


「そうね、そうしましょう」


私たちは夜の街へと歩き出した。










冥王ルシアと幽霊レイチェル

「お帰りなさい冥王様」

「ただいま、レイチェル。何して遊ぼうか」

冥王様、なんだか少し眠そう。それなら私が眠る前のお話をして差し上げますわ。

「では本を音読しますので聞いてください」

「いいわよ、どの本なの?」

「『つぎはぎ死体の操り方と関連事件記録』です」

「なかなか面白そうね」

冥王様はベッドに昇って布団に入った。
それを確認してから、私はベッドの傍らの揺り椅子に座ると『つぎはぎ死体の操り方と関連事件記録』を開いて読み始める。

「序章、つぎはぎ死体のつぎはぎのしかたの基本。まずは基本の基本として同一種の死体を使用したつぎはぎの方法を記す。同一種ゆえ各部位のスムーズなつぎはぎ、並び替え、組み合わせが容易である。しかしながら多様性の面からは同一種では―――」



ゆっくりお休みになってくださいませ、冥王様





私は瞼ををそっと閉じた。
レイチェルの声が次第に遠ざかっていく。
白いマーガレットが咲き誇る草原に私は仰向けで寝ころんだ。
心地よい風に乗った花の甘い香りが私を包み込む。
瞼を開いて見上げると目に飛び込んできたのは、青く透き通る大空、ゆっくりと移動する少なめの雲、眩しくて暖かい太陽の光。
遠くから草原を駆けまわる少年少女たちの無邪気な笑い声が聞こえてくる。

飽きてきたな……

どうしてそんなことを思ってしまったのだろう。そんなこと思う必要は何もなかったのではないの?
でも私はそう思ってしまった。それは確かに起きたこと。

突然周囲の全てが鮮やかな色彩を失い始めた。
晴れ渡る空を暗い雲がみるみる覆い、太陽の光を遮る。雲自体はそれ程分厚いというわけではない。太陽の光自体が弱まり明るさを奪っていっているのだ。
子供たちの笑い声と気配が消え、代わりに冷たい霊気が漂い始めた。草原の草も花もみるみる萎れていく。

私は上半身を起こすと周囲を見渡した。
焦りと困惑の表情で

なんで、どうしてこんな世界にしてしまうの?
元に戻そう。そう、今なら間に合う、引き返せるはず。



「冥王様?」

突如、背後から声が聞こえた。私は驚いて振り返り、声の主を見上げた。。
ひとりの金髪の少女が立っていた。

「あ!驚きましたわね」

「あ、あなたは……レイチェル……?」

「もちろん、そうですわ」

少女はクスクスと笑いながら答えた。

「どうしたの?」

「それはこっちが聞きたいですわ。この空間、冥王様の昔の記憶なのかしら?」

「さあ、どうかしら。あまりに昔の記憶は忘れてしまったわ。だからただの妄想の可能性が強いわね」

本当にそうだろうか……

レイチェルはしばし不思議そうな表情で考えていたが、納得したように笑顔になると話題を変えた。

「わたくし、りんごケーキを焼きましたの、召し上がりますわね?」

「ええ……いただくわ」

レイチェルは私に右手を差し伸べてきた。私はその手を両手で握ってフラフラと立ち上がった。
そして瞼を閉じた。



次に瞼を開くと私は食堂にいた。
黒檀の長テーブルの上にいくつも置かれた燭台の蝋燭が暗い食堂をぼんやりと照らしている。
私はテーブルの短い辺の位置の椅子に座りぼーと蝋燭の炎を眺めていた。
レイチェルがりんごケーキと紅茶を私の前に並べた。

「どうぞ、召し上がれ」

「ありがとう」

私はフォークで一口食べてみる。甘いりんごの味が口の中に広がる。

「とても美味しいわ、レイチェル」



「ねえ、レイチェル」

「なんですか?冥王様」

「私はここにいるわ、この冥界に。あなたのそばに」

レイチェルは静かに私に抱きついた。

「知っていますわ。ここはあなたの冥界ですもの。あなたがいなくなればここは御終いですもの」

「そんなことするつもりはないわ」

私はレイチェルの頭を優しく撫でた。

「嬉しいですわ」


なぜなら、この冥界は私を飽きさせない
狂気と恐怖の織り成す暗黒の天国

そして、ほんの少々の、だけどとてもあたたかい心















惹かれるということ

冥王ルシアへ

『遊びに来なさい』

         魔王様より

P.S.
私の意識は開けておくのでいつでも入ってくれて構わない。



黒衣の少女は旗艦の艦橋から宇宙空間で行われる艦隊同士の戦いを見守っている。
生物と機械の融合したバイオメカデザインな無数の艦船は黒と白の色違いで二つの陣営にわかれていた。
少女は黒の陣営で旗艦の中から直接指揮を執っていた。といっても見た目には戦場を窓から眺めているだけであったが。
白の陣営は全自動のAIによって統率されている。なのでこの戦い全体が彼女のボードゲームなのだ。


今、意識の視点は黒衣の魔王へと急速に収束していく……
もはやここではあらゆる存在は彼女の……そう私の……


私の思念に合わせて艦隊が踊る。
ビームを撃ち、ミサイルを放ち、爆散して消え、あるいは再生や復活を行う。
星の海に上書きされる一際輝く星の海。

「どうかしら?」
私は今しがた現れた背後の存在に対して囁いた。
「あなたも参加してみない?白い方の指揮役をやってもいいわよ」
少しの沈黙の後、
「どうしてもあなたがそれを願うならしてもいいけれど……」
感情のない声で答えが返ってきた。

「いえ、ここで一緒に見ていましょう」
暗緑衣の少女は私のすぐ右隣に並んで窓から星の海を眺めた。


「誘って悪いんだけど、何も感じない遊びでしょう」
「そうかしら?私は面白いけれど」
「私は何日も見つめ続けているからな」
「それは麻痺するわね」

「ええ、でも何故か惹きつけられて目が離せなくなる光景なの」

私は右を向き彼女の横顔を見つめた。
無表情な白く美しい横顔。緑に輝く瞳が戦場を見つめている。
時折、粒子ビームが放つ赤や緑の光が白い髪と肌を色鮮やかに染める。

「どうしたの?惹きつけられるのではなかったの?」
冥王は窓の外を見つめたまま尋ねた。
「より上があるということだよ」
私は静かに答えた。



「少し踊ろう」
「ええ……」

空間が揺らぎ周囲の物の判別がつかなくなる―――次の瞬間、私たちは艦隊戦が行われている宇宙空間の真っただ中にいた。

私は黒い光の翼を広げ赤い光の剣を物質化した。
冥王の黒衣が広がり冥界の緑の閃光が彼女を包む。緑光の一部が剣を形成し冥王の手に収まった。

行くわよ

私はテレパシーで思念を送った。

ええ

冥王の意識がそれに答えた。

赤と緑の光は互いを追いかけ衝突しあるいは仲良く軌跡を描き、星の海の中に最大の輝きを放った。




大きな黒い部屋―――
壁には青い光の記号や数字が滝のように流れ落ち床に広がり、または上に昇り天上に広がっている。
眉間から青い光が発して青白い光の立方体を出現させた。

今日の記録、保存しておく

冥王は私の意識領域から去った。いや、前より結びつきは強くなっている。離れても意識の接続が前よりも強く感じられる。
また彼女を誘おう、今度はどんな遊びをしましょうか










動かしがたい存在

冥王である私は、私の幽霊劇場の巨大なホールの中ほどに立っていた。
すると静寂を破るように、コツリコツリと大理石の床を歩く靴音だけが、一見私しかいないホール内に響く。
しかし、その足音の主は私には見えている。
振り返ると、うっすらと白いもやのようなものがこちらへ近づいてくるところだ。
それは次第に輪郭と色彩が確かなものになっていく。
腰まで届く長い金髪、青白い肌に蒼い瞳、白いドレス。
人間でいえば13歳位の見た目の少女。
少女は私の目の前で立ち止まると少しふてくされた表情で私を見つめ、呟いた。

「また見つかってしまいましたわ……。今回は念入りに姿を消して足音も消したはずなのに、いつも通り」

私は無表情のまま、優しく答える。

「レイチェル、次は見ないふり聞こえないふりしてあげるわ」

「それでは意味がありませんわ」

「では、私が何か思いにふけっているときを狙いなさい」

「今回もそのつもりだったのですけれど……あなたを驚かすのは難しすぎますわ。でもわたくしは諦めませんわ」

「ふふふ、上手くいくといいわね」

私は舞台上に目をやる。
舞台は遠いようであり近くでもあるように空間が揺らいでいる。
近くにある状態に固定して揺らぎを収めた。
次に、緑色の幽霊霧を空間から噴出させてグランドピアノと椅子の形を形成する。
それはすぐに本物の黒いグランドピアノになった。
私はふわりと宙を舞い舞台上に着地した。
レイチェルも私を追いかけて飛び立った。
私は椅子に腰かけてピアノを弾き始めた。

曲名は『始まらない朝』

レイチェルは瞼を閉じて悲しい音色に耳を傾けた。









星の大海で


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星の大海で私はアリシアと2人きりでいた。
 全周囲、見渡す限りの宇宙空間に星たちが煌いている。

 私たちは長いこと黙っていた。

 彼女の赤い精神波の輝きが私を照らす。
 風も無く彼女の白い髪とドレスが揺らいでいる。

 私はそんな彼女に魅せられていた。

「魔王様」

 唐突な呼び声に、私はふと我に返った。

「何?」

 私は精一杯平静を装って呼び声に応えた。それが無駄な行為であることは解っている。

 アリシアは近くの星をひとつ手に取ると笑顔で私に差し出した。

「はい、アイスクリーム」

 星はバニラ味のアイスクリームになっていた。

「ありがとう」

 私はアイスを受け取ると無表情のまま食べ始めた。
 もちろん味は絶品だ。当たり前だけど。

「アリシア?」

「何?」

 アリシアは何時の間にか手にしていたイチゴ味のアイスクリームを食べながら応えた。


 アリシア、あなたがいたから私は今まで私を保ってここまで来ることができた。
 どんな時も一緒にいて私の支えになってくれた。
 私を励まして、勇気付けてくれた。
 あなたがいない世界なんて想像もできないわ。
 本当にありがとう――


「……何でも……ないわ」


 私たちはアイスクリームを食べ終えた。
 また黙って巡る星々の観察を再開した。


 時間が流れる……


「そろそろ城に帰りましょう」

 どれ位経過しただろうか……
 私は帰還を提案した。

「ええ、そうね」

 アリシアは静かに同意した。


 私たちは光の翼を広げ飛び立った。

 しっかりと互いの手を繋いで。




 無数の星々が線となって流れ――

 私たちは真っ白い光に包まれた










高次元宇宙小説一覧

◆小説

 高次元宇宙少女~つくられたもの~


◆連編

 冥王ルシア
 
 
 

 二人の魔女
 


◆ショートストーリー

 星の大海で
 魔王様とアリシアのお話

◆長編小説

 神話宇宙少女 光と闇の輪 時から降りた神々の物語










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